2007年10月7日日曜日

驚異の産業技術 ①サンドバッグの作り方 その2

 Q社の詳しい所在地については、ここで明らかにすることはできませんが、思ったよりも狭い敷地の中に、総務・営業部門の入った2階建ての社屋と、小学校の体育館程度の大きさの倉庫、そしてこれらの2つの建物とやや距離を置くようにして建てられた、倉庫と同程度の規模の建物が並んでいました。
 いずれにせよ、ここが世界的なメーカーの社屋かと思うほど、こじんまりとしたものでした。しかし、敷地内へ出入りする際の手続きは厳重を極め、身分証を提示した後、入念なボディチェックを経て、ようやく出勤・退勤が許可されるというものものしさでした。
 最初の1週間は、毎日、原材料・製品の積み下ろしといった単調な倉庫業務が主で、工場へ近づくことさえできません。遠くから工場の建物を見ることができるだけです。
 しかし、気になることはありました。就業時間中、工場の方角から、一定のリズムで和太鼓を叩くような、腹の底に響く音が聞こえてくるのです。なぜ、そんな音が工場から聞こえてくるのか?音の正体は何なのか?

 気にはなっていましたが、うっかり誰かに尋ねて怪しまれては、潜入調査の意味がありません。私は、黙々と仕事を続けながらチャンスをうかがっていました。
 それから何事も進展しないままに、2週間があっという間に過ぎました。
「このまま何もわからぬままに、期限切れを迎えてしまうのか…」
  私はあせりましたが、平静を装って仕事を続けるしかありませんでした。
 しかし、ようやくチャンスが巡ってきました。あと1週間で雇用期間が切れるという日、たまたま工場の従業員が病欠で人手が足りなくなったとのことで、急遽バイトの誰かを生産部門へ臨時に配属するということになったのです。日頃の勤務態度がよかったのを買われたのでしょう、私は生産部門に配属され、いよいよ工場の建物に入ることになりました。
 工場長は、がっちりした体格で、浅黒く日焼けした顔に角刈りのよく似合う、精悍な顔立が印象的な、40年配の男でした。
 その日の朝、工場内の事務所で、私は、ここでこれから眼にすることを決して他言しないことを約束させられてから、「ほれ、仕事着…」と言って、柔道着のようなものをひとまとめにして渡されました。怪訝な表情の私をよそに、工場長は「ちょっと汗臭いかもしれないけどな。今日は洗濯が間に合わなくって…」と言いながら、先に外へ出ました。
 訳のわからない展開に首をひねりながらも、更衣室で着替えを済ませて外に出ると、工場長はすでに柔道着のような仕事着に着替えていました。帯は黒帯です。「キミは初心者だから、白帯ね」、けろっとした顔で工場長は言いました。私は、いよいよ訳がわからなくなりました。
 そして、工場長に伴われ、重い鉄の扉を開けて工場に一歩入った瞬間、「こ、これは…」信じられない光景を目の当たりにして、私は思わず絶句しました。(以下、次回に続く)

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